昨今、消費者が電話で問い合わせをした際に無理な「定期購入への引き上げ」トラブルが増加しているのをご存じでしょうか。
この「アップセル・クロスセル」トラブルを背景に、特商法が改正され、2023年6月1日に施行されます。
あくまでも「規制」ですので、「禁止」ではありません。その代わりルールを守らなければ罰則がありますよ、というのが規制となります。
このクロスセル・アップセルは大手通信販売会社が多用するほど、会社の規模を問わず使っている重量な商品提案、売上アップのための手法の一つです。
6月1日の改正特商法の施行では契約時の電子契約書に関する規定が大きく取り上げられていましたが、ひっそりとこのクロスセルとアップセル規制が追加されておりますので、その概要をお伝えします。
目次
クロスセル・アップセルとは
クロスセルとは、Aという商品の広告を見たお客様からの問い合わせ時に、同列の別のBという商品を提案すること。
アップセルとは、より収益性の高い、例えば複数購入や定期コースへの引き上げを提案、契約してもらうことを言います。
特商法改正の経緯
今回の規制強化の経緯については、消費者からのクレーム、国民生活センター等への相談が発端と言われています。
昨年規制が強められた定期コースの「最終購入画面」の表示に関してと似たようなところです。
近年、消費者から「お試し」や「サンプル」という広告を見て問い合わせをしたら、サンプルだけ頼んだはずなのに、定期コースの契約で、1年縛りだったとか、解約するにも電話が繋がらないなど、消費者からの相談が多く寄せられたというのが背景にあります。
さらに、今回のクロスセル・アップセル規制に関しても、Aという商品を頼んだだけなのにBという商品や定期コースをtしつこく提案されて迷惑という苦情が多く寄せられていたというのが現実です。
クロスセル・アップセル規制特商法の概要と背景
今回のクロスセル・アップセル規制で問題となったのは、老眼の方向けの拡大鏡を半額で販売する広告があり、その広告を見たお客様が問い合わせると、その電話で目に良いサプリがあるるのでサンプルを一緒に送ると提案されたが、それを承諾すると実際はそのサプリの1年縛りの定期コースへの申し込みが完了していたというもの。
なかなかの押し売り手法ですが、現行の特商法ではお客様がかけた電話を受電しての勧誘というのは「通信販売」の枠にとどまり、クーリングオフ等の規制のかかる「電話勧誘販売」に該当しないので規制をかけることが困難でした。
電話勧誘販売として規制対象となる広告が変更
特商法による「電話勧誘販売」規制は不意打ち的な電話による勧誘から消費者を守る目的で作られています。
例えば、ある日見ず知らずの番号からかかってきて、いきなり商品やサービスを勧誘される目的ですので、昨今のようなインターネットや、テレビショッピング、新聞広告を見て、注文の電話をかけた時に別の勧誘を受けることを想定して作成されておりません。
現在のところ、
電話、郵便、信書便、電報、ファクシミリ装置を用いて送信する方法若しくは電磁的方法により、又はビラ若しくはパンフレットを配布して、当該契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること
特定商取引法ガイド https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/telemarketing/
電話や電報、FAX、チラシ、パンフレットというような、電波、電磁的なところや紙からの情報を受けての電話では電話勧誘してはいけませんよ、となっていますが、2023年の6月1日からはこれに加えて、
又は広告を新聞、雑誌その他の刊行物に掲載し、若しくはラジオ放送、テレビジョン放送若しくはウェブページ等(インターネットを利用した情報の閲覧の用に供される電磁的記録で主務省令で定めるもの又はその集合物をいう。第十九条において同じ。)を利用して
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/amendment/2021/assets/consumer_transaction_cms101_230201_03.pdf
が加わります。
新聞テレビ雑誌のようなメディアに掲載された広告や、webサイトを見ての問い合わせ時も、「電話勧誘販売」として取り扱いますよ、という文面に改正されています。
企業が講じるべき対策
今回の規制で「禁止」となるのでしょうか。
「規制」ですので、ルールを守ってやりましょう、でも違反したら罰則があるよ、という感じです。
多くの業者様はおそらく注文されたものに対する対応をされているので、悪質な提案はされていないと思うので改善すべき点は多くないと思いますが、この特商法改正を受けて企業がとるべき対策は、まずコールセンターのトークスクリプトの見直しでしょう。
このクロスセル・アップセルはかなりの流行り手法で、多くのマーケティングセミナーで流布され、コンサルタント会社がコンサルを取り組んでるところです。この手法で売上アップを達成している場合は手放すことは難しいかもしれませんが、通報された場合のリスクを考えると変えざるを得ないというのが現状でしょう。
まず。今回の法改正の発端である、目的の商品以外が届くということは避けなければなりません。
上にあげた例にもありましたが、拡大鏡を注文したはずなのに、サプリが届くということはNGです。
また、定期コースに勧誘するということもNGです。
まずはクレームに繋がらないことを考えましょう。
電話勧誘販売の規定には、勧誘の方法にいくつか決まりがあります。
以下、特定書取引法ガイド(https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/telemarketing/)から引用しますと、
1.事業者の氏名等の明示(法第16条)
事業者は、電話勧誘販売をしようとするときは、勧誘に先立って、消費者に対して以下の事項を告げなければなりません。
- 事業者の氏名(名称)
- 勧誘を行う者の氏名
- 販売しようとする商品(権利、役務)の種類
- 契約の締結について勧誘する目的である旨
2.再勧誘の禁止(法第17条)
特定商取引法は、電話勧誘販売に係る契約等を締結しない意思を表示した者に対する勧誘の継続や再勧誘を禁止しています。
3.書面の交付(法第18条、法第19条)
- 商品(権利、役務)の種類
- 販売価格(役務の対価)
- 代金(対価)の支払時期、方法
- 商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
- 契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項(クーリング・オフができない部分的適用除外がある場合はその旨含む。)
- 事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
- 契約の締結を担当した者の氏名
- 契約の締結の年月日
- 商品名及び商品の商標又は製造業者名
- 商品の型式
- 商品の数量
- 引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
- 契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
- そのほか特約があるときには、その内容
5.禁止行為(法第21条)
特定商取引法は、電話勧誘販売における、以下のような不当な行為を禁止しています。
- 契約の締結について勧誘を行う際、又は契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、事実と違うことを告げること
- 契約の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
- 契約を締結させ、又は契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、相手を威迫して困惑させること
このような決まりがあります。
まず氏名は言っているかと思いますが、勧誘の目的をはっきりと告げる必要があります。
例えば、「拡大鏡の注文を受け付けておりますが、これから目に良いサプリをご提案してもよろしいですか」という感じです。
さらに商品の個数や、定期コースなら契約期間等の説明をしなければなりません。
おそらくこの説明を省略することで、消費者とのトラブルが起き、今回の法改正へと繋がってるのかと思います。
再勧誘の禁止について
電話勧誘販売の行政規則に「再勧誘の禁止」というものがあります。
これは見たままの意味ではありますが、ポジティブに捉えれば、Aという商品を断られたとしても、Bなら別の商品であるので再勧誘には当たらないと考える方もいるかと思います。
しかし、行政としては、Aという商品を断った時点で、Aというよりもこの電話での勧誘を終わらせたい、電話を切りたいという意図が大きいと判断しておりますので、Aという商品を断られた時点でこの勧誘は終了したと考えることが重要であり、クレームを防ぐこととなります。
全てはお客様からのクレームを無くすため
今回の法改正の発端となった事例は、本当の詐欺的な定期コースへの勧誘です。
一部の業者が起こしたために通信販売業界に大きな波紋を広げています。
お客様からしたら、なかなか電話を切らせてもらえないとなると押し負けて購入する方もいますし、電話というものを見ない状態でサンプルも一緒にと言われると思わずそれもくださいと答えてしまうかもしれません。
これによって売上は増える会社様もいるかと思いますが、それにより業界全体に悪影響も与える結果になるのも事実です。
今回の特商法改正によって、電話でのクロスセル・アップセルが特商法の規制対象となり、クーリングオフの対象となったり、罰則の対象となったりと、企業の対応が増えることとなりました。
このような罰則の強化が今後起こらないためにも誠心誠意お客様対応がなされることを期待します。
皆様の参考になれば幸いです。