学生からの質問で多いのは「ディレクター志望ですが、プロダクションマネージャー職で入社してもディレクターになれますか?」というもの。
背景としては、映像制作会社の新卒募集において、ディレクター職の募集人数は1人か2人。狭き門なのです。
当然、作品集などの武器がなく映像制作経験が乏しい学生は門前払いとなり、募集人数の多いプロダクションマネージャー職へと応募する事になります。
結論から言うと、なった人は少ないですがいます。
ディレクター職で採用されればもちろん最短ルートを取ることができますが、今回は時間がかかることを覚悟すれば、PM職からディレクターへと進化できる訳をお話しましょう。
目次
5年以上耐える覚悟をしよう
新卒として映像制作の右も左も分からない状態で入社したあなたはおそらく過酷な環境に驚くでしょう。
長時間労働、パワハラ、低賃金。
完全な下っ端扱い。輝いている世界ではなかった、と思うかと思います。
最初の2,3年は働く意味を考えるごとに落ち込むかもしれません。
これは映像業界特有な現象で、テレビ、CM、PVどの映像業界でも同じです。
他の制作会社は大丈夫だろうと思って転職してもだいがい同じですので、ひどいいじめやパワハラ、やりたい映像のジャンルが変わらなければ、そのまま耐えたほうが最短ルートかもしれません。
入社当時同期が50人ほどいても、1年後には半分になり、5年後には10人ほどになっているでしょう。
逆にそれがチャンスなのです。5年後にはあなたはなくてはならない存在になります。
プロダクションマネージャーの利点を知る
実は、プロダクションマネージャーを先に経験するとディレクターでは得られない二つの「強み」を得ることができます。
1.人脈
2.お金
ディレクターとしていきなりデビューすると、この二つが身につきません。
人によっては全てが与えられるだけで、狭い世界に生きることになります。
一度でも失敗すると誰も仕事を振ってくれなくなります。
さて、その理由をご説明していきましょう。
人脈=スタッフ見極め能力
プロダクションマネージャーはスタッフを集める、統率することも仕事です。そうすると自然とカメラマン、ライトマン、エディターなど映像制作に必要なキーマンと接するようになります。
新人の頃は顔見知り程度でも、数年後には発注する立場になりますね。
つまり、どのカメラマンに頼めばどんな映像を撮ってくれるかなどスタッフの技量、そしてもしも自分がディレクターになった時に指名する人、選択肢が増えるわけです。
個人で勝手にディレクターを始めると、最初は友達に撮ってもらいましたみたいな陳腐なものになってしまうので断然有利です。
PM時代に丁寧に扱うと喜んで協力してくれます。
人脈=様々なディレクターとの繋がり
ディレクターとは実は孤独な職業でもあります。同業者は全て敵です。一つの案件に一人しか選ばれません。
するとどうなるか、演出の勉強は個人で地道にやっていかなければなりません。
一方、プロダクションマネージャーを経験すると、様々なディレクターと交流することで演出の勉強ができます。
案件ごとにディレクターは変わります。また、同じディレクターでも同じ企画は出せませんから練りに練ったものが毎回見れるわけです。
一流の、最前線で活躍しているディレクターの仕事ぶりが見れるので、ディレクターとは何かがわかります。尊敬する人を見つけるのも手です。
すると、いろんなアイデアを勉強することができます。
絵コンテは別に汚くてもいいんだなとか、この人ここにこだわるなとか色々学ぶことがあるでしょう。
お金=コスト感覚
プロダクションマネージャーとして仕事は「予算内」に収め、さらに「利益」を出すことを求められます。
ディレクターも同じです。
でもディレクター一筋で生きていくと、その感覚が鈍い人がいるわけです。
端的に言うと、お金のかかる演出しかできない人です。
創造と予算のバランス感覚が分からないのです。
そうなると「いいものは作るけど、利益を出せない人」というレッテルが制作会社側に勝手に貼られます。
映像制作会社はボランティアで映像を作っている訳ではありません。常にプロデューサー、PMは会社から利益を求められながら戦っているのです。
そうなるとだんだんと仕事は減り、「最近見なくなったね」と業界の人から言われるようになります。
PMはその「予算と創造のバランス」を徹底的に叩き込まれるので、利益を取りつつ、いいものをつくる演出を心がけることができるようになるでしょう。
耐えればチャンスはやってくる
さて、前置きが長かったですが本題です。
なぜPM職でディレクターへのチャンスがあるかというと、プロデューサーの営業事情が関わってきます。
つまり、予算の大きい案件をとる代わりに、予算が少なめのちょっとしたweb動画のような案件であったり、まだ売れてないアーティストのPVであったり、いわゆる「バーター」案件をしなくてはならないからです。
予算がない。全てを外注すると予算に収まらないですから、ほとんどを自前で処理しなければなりません。
ディレクターの演出費というのは予算に対していつも大きいものです。
そうなるとプロデューサーから、
お前、ディレクターなりたいって言ってたな!ちょっとやってみなよ!
と言われることがあるのです。半笑いで。
ポイントは地味に主張すること
はっきりと、PMが「ディレクターになりたい」と言うと引かれます。
なぜなら、こいつは何年後かに辞めるんだろうなとか、PMを踏み台にしているんだなとか、マイナスなイメージを持たれがちです。
たくさんの先人たちが「ディレクターになりたいので辞めます」と言って去っていったからです。
皆さんは「チャンスがあれば演出をやりたい!やってみたい!」ぐらいにとどめておきましょう。
そうすれば、やってみるか!と言いやすくなりますので。
さあ、ディレクターへの道はそこから始まります。
最初は50万の案件が、100万、300万!予算がどんどん増えていくでしょう。
悩める方の参考になれば幸いです。