THE FIRST TAKE(ザ ファーストテイク)は2019年11月15日にYouTubeチャンネルが開設されました。
ザ ファーストテイクとは「一発撮りで、音楽と向き合う。」というコンセプトで、アーティストがマイクの前でパフォーマンスを披露しているチャンネルとなります。そこに演出や加工はあまりないと言ってよいでしょう。
LiSAの「紅蓮華」、DISH//の北村匠海「猫」で一気に伸ばした印象です。他にも、あいみょんやaimerなど有名アーティストをキャスティングしてさらに数字が伸びています。
北村匠海は、ファーストテイク出演前からDISH//というアイドルというかバンドグループで長年活動はしていましたが、一般的な認知度で言ったらまだまだ無名といっても良いぐらいのポジションでした。しかし、ファーストテイクに出演後、大ブレイクを果たしました。
今では登録者600万人を超える大人気チャンネルですが、実は、これを仕掛けたのは広告代理店と映像制作会社の社員であるということも興味深いです。
今回は2019年の映像業界を取り巻く感覚を思い出しながら、ザ ファーストテイクが音楽映像業界にどう影響を与えたのか解説していきましょう。
目次
これまでのミュージックビデオはフィクション要素が強い
これまでのアーティストが歌って踊るような音楽映像というと、ミュージックビデオ(MV)やプロモーションビデオ(PV)という名前で制作されていました。
主にテレビ等で曲の宣伝をする目的で制作されてきました。
現実をお話しすると、撮影現場では、スピーカーで流れている曲にアーティスト本人は当て振りしています。音は撮影時に収録したものではなくレコーディングした音源に映像を載せているだけです。そしてディレクターによる映像の演出が入っているのが通例です。
ビデオにアーティスト本人が出演しないものもあります。
そこに入っている映像や音にはアーティストの生歌のパフォーマンスはほぼ入っておらず、すべて作られたもので映像作品としての意味合いが強かったというのが現実です。
たとえ、アーティスト本人が最初から最後まで出演していたとしてもそれは「制作費の安い作品」とみなされる傾向がありました。
だから、色々とロケを行ったりキャストを使ったりして色々な肉付けをすることにより、安っぽく見えない、より映像作品性を高めていった歴史があります。
そういった意味では、ファーストテイクで流れている映像のような、アーティストがマイクの前で最初から最後まで歌い切る映像なんてクライアントに商品として出せない、手抜き作品として評価される恐れがあるため、音楽映像業界では誰もやりたがらないというか、できない企画とも言えました。
映像業界が仕掛けた歴史的なチャンネル
このチャンネルの特徴は、博報堂のクリエイティブディレクター清水恵介氏とTYOのプロデューサー木下健太郎氏という広告代理店と制作会社がタッグを組んで仕掛けた点です。
2019年当時、映像業界にとってYouTubeは「素人動画」という見方をしていました。
映像の質も高くなく、あくまでアマチュアの活動の場であると見下す傾向にありました。
しかし、MVのフルバージョンが続々とYouTubeで公開されつつあり、音楽映像の主戦場がテレビ等のマスメディアから、YouTubeというインターネット動画プラットフォームへと切り替わっていっていることも事実ではありました。
最初はレコード会社もMVを寝かせておくよりも、YouTubeで公開して少しでも収益を得ておこうという認識だったと思います。
ファーストテイクの成り立ちは、これまでの常識にとらわれず、その時代の流れをうまく読んで実際に行動した、という点がとても評価すべきポイントとなります。
音楽映像業界はとても閉鎖的というか、予算がつかない業界です。MVの多くが中小の映像制作会社が担っており、大手広告代理店や制作会社では扱わなかったのも通例でした。
それにも関わらず、上を説得して、お金になるかも分からないYouTubeの世界に大手会社が乗り出したことは歴史を動かす出来事であったのです。
一番音楽業界と繋がりがあって、動きやすいはずの中小音楽映像制作会社は、大手会社よりも簡単にこのチャレンジができたはずでしたが、ただ指をくわえて見ているだけになってしまいました。
やはり、お金をもらって映像を作るのと、先行投資としてお金を投入して映像を作るのでは違いますから無理もありません。
映像制作会社がYouTube映像を企画制作する時代に突入
映像制作会社がYouTubeに参入して成功している会社もあります。その筆頭としてはマッコイ斉藤が率いる「笑軍」という映像制作会社です。
この映像制作会社はとにかく厳しいという話は置いておいて、最近では石橋貴明さんの「貴ちゃんねるず」や「TOKYO BB」というバイクチャンネルも運営しています。
やはりテレビ仕込みの面白映像を観れるということでかなり人気です。
将来的にはこのような映像制作会社がテレビや広告代理店の下請けではなく、自分たちで企画制作して映像を作っていく時代になっていくことでしょう。
映像に対する予算は減る一方で、映像の質全体は下がっていくことが予想されます。
誰でもデジカメとパソコンがあれば映像を作ることができるので、映像の種類によってはその流れになっていくでしょう。
未来ある映像制作会社に転職する際には、採用面接で自社企画の映像は作っているか聞いてみるのも良いかもしれませんね。
YouTubeでは何がバスるかわかりません。業界の常識では考えられない低クオリティの映像作品、チャンネルでも普通の人の年収の何倍もの収益を上げているのが現実です。
思いついたら行動するのが大事ですね。
皆さんの参考になれば幸いです。